日の出郷住居跡

　小林軍治先生の父光雄は、先遣隊として昭和12年に入植し、家族招致で一時帰国した14年に 母静恵と結婚した。お母さんは、広田内閣が重要国策として「満州農業移民百万戸移住計画」で 推進した当時の言葉でいわれる「大陸の花嫁」である。気候や風土の違いもあって、結婚後すぐに 生まれた長女恵子（2歳）は、昭和17年7月に在団中に病気で亡くなった。しかし、待望の長男の 軍治さんは、同じ年9月22日に誕生した。

　昭和16年の関東軍特種演習で、龍爪開拓団は食糧基地として軍納野菜など供給し、経済的にも 豊かになっていた。

　「農業だけでなく、牧畜にも力を入れていた。最高時には馬5頭、牛3頭、鶏8羽、豚40頭を 飼っていた。現地の中国人苦力を20人雇っていた小地主」であった。（『無告の民の語り部として』より）

　そんな父にも、昭和20年7月25日に現地召集が来た。

　1983（昭和58）年に、軍治さんは龍爪会訪中団の一員としてお父さんと岡山日の出郷を 訪れている。この時、日本では「残留孤児の肉親捜し」が始まり、まだ中国も改革開放経済が始まった ばかりで、龍爪開拓団の面影も多く残っていた。

　お父さんと軍治さんは、元住んでいた場所を見つけることができた。家も後から建てられていた 物だったし、住んでいる人も知らない人だったが、温かく迎えてくれ一緒に撮った地元女性の写真が、 2005年の訪問の際の場所的な決め手になった。その、女性は今回も食品店におられた。彼女は、 本部跡や軍治さんの家跡を案内してくれた。高見英夫さんの家も、日の出郷で、軍治さんの旧居から 道を隔てて数件離れた所へあった。しかし、英夫さんは「ここは、全く記憶にない」という。それもそのはず、 赤い煉瓦の家が建ち並び、舗装工事がすすみ、中国の経済成長はここにも及んでいて、原風景を あとかたなく変えていた。