岡山県龍爪開拓団18
「岡山県龍爪開拓団」

18 おわりに

 「中国残留邦人支援法改正案」によって、国民年金老齢基礎年金の満額支給や生活保護 制度とは別の制度としての給付金制度、中国残留邦人の特殊な事情等へ配慮した運用がされる ことが決まり残留孤児の人たちが中国へ里帰りや墓参りも可能となり、笑顔でその報告を聞く ことができるようになった。こうした点は、「生活保護法」で救済としてきた従来の支援策を 大きく転換した。しかし、すべて解決したか、というと残された課題も少なくない。残留 孤児が人間の尊厳を回復するために何よりも重要なのは、残留孤児が日本社会の一員として 日本人と交流し、尊重されることだ。残留孤児が自信と誇りを持って生きるためには、なぜ 中国残留孤児が発生したか、なぜ日本語が十分に話せないか、その歴史を広く国民に伝え、 知ってもらうことが必要だ。日本語教室は五周年を迎えたが、まだまだ、微妙な表現の日本語は 無理である。なかでも、高齢化していく残留孤児が病院で病状を説明したり、市役所への資料 提出といった事務上のことなど難しい。中国の新聞や雑誌・本を読むレベルに、日本語は達して いない。それ故に、日本人との交流はまだ限られた範囲である。中国残留孤児を支援すること への支持・共感を得ていくための啓発が必要だ。今後の残された課題の解決について、政策を 担当する厚生労働省・各自治体とも話し合っていくことが大事だと思う。

 最後に、オーラル・ヒストリーの可能性について書いておきたい。

 オーラル・ヒストリー学会に所属する岡山大学の中尾知代准教授は4点指摘する。

 1、それぞれの立場、文化の人間感情、思い、経緯や背景、考え方、立場が絡み合って 事象が起こるということ、個人が主体であると同時にその交響曲的な関係性が、歴史を紡いで いくことが確認される。

 2、未来に資料を残す作業である。将来の世代が判断基準にする文化資源が残る。

 3、聴き取りを重ねていくうちに、光がとおり、それぞれの人間が有機的な像を結び 始める。その瞬間がもっとも貴重だし文章中の事態が3D化していく。

 4、オーラル・ヒストリーは、貴重な史資料の発掘と保存の機会である。

 歴史を学ぶ者は、文献史学のみを重視する傾向があった。しかし、近現代史を専攻する 者にとっては、アーカイブ(archive)=「様々な媒体の資料を対象にしたコレクション」も 必要となる。オーラル・ヒストリーで聴き取りした証言やNHKのテレビ・ラジオ番組も 含めて、文献史学にはない史料を利用することによって歴史の真実や再構成が可能になる。

 この20年間に戦争を体験した人が多く亡くなったことは悔やまれる。しかし、今だから 話せる人もいる。これからも可能な限り、文献史資料と聴き取りなどアーカイブを駆使して、 歴史の真実を探っていきたい。

(あおき やすよし)

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