8 戦場の病気について

 まずマラリアについては、10月2日・9日と安慶の第2分隊ではじまり、10月11日・14日には九江の第3分隊で発生した。この2カ所で集中している。広辞苑によれば、マラリアとは「ハマダラカの媒介する原虫の血球内寄生の伝染病」とあり、「隔日に高熱を発する三日熱、最初の発作から二日平温があって四日目に高熱を発する四日熱、及び不規則な熱帯熱の三種に分かれる」とある。 10月30日の『陣中日誌』に「蚊帳(八人用)十四、(七人用)三、(六人用)四、防蚊覆面二、返納」とある。マラリア対策で、10月末まで21枚の蚊帳を張って寝ていたことがわかる。それでも13件発病している。南京でも蚊帳36枚返納という記載がある。

 次に、胃腸病が多い。11月20日の『陣中日誌』に、「乗船以来数日航行中ノ不便ハ因ヨリ運動不足勝ニテ梢モスレハ体力ノ減退殊ニ胃腸の衰弱ニ陥リ易ク疾病ノ基因」とある。セレベス丸に乗船中の注意だが、運動不足などで胃腸病が起こるとは思えない。トイレの不衛生、水あたりによるもの、戦時の精神的要素で「戦時栄養失調症」的なものが含まれていると解釈すべきであろう。 

 三番目に「風邪」である。感冒、胸膜炎、発熱、気管支炎などは風邪が原因によるものであろう。被服の配給でも、ストーブ取り付け作業にしても、漢口という地理的位置の寒さが、『陣中日誌』から伝わってくる。12月20日過ぎから、冷たい雨が雪に変わり、作業を中断している。
戦場の病気
病名件数
マラリア13件
胃腸病10件
性病8件
感冒2件
胸膜炎2件
発熱2件
気管支炎2件
黄疸2件
2件
神経痛1件
骨膜炎・胆石各1件
挫傷・捻挫各1件
疑似腸チフス1件
不明2件
1938年8月〜12月まで

 最後に「性病」である。杭州・漢口、安慶でそれぞれ発生している。作業の休業日の後に発生している点でも、「慰安所」が存在することを意味している。「下疳」は「花柳病の一種で、陰部に生ずる潰瘍」、「疳瘡」は「漢方で、性病による陰部の腫物や潰瘍をいう」と広辞苑にある。いずれも野戦病院へ入院している。
性病
月日病名件数
<杭州にて>
8月18日梅毒・淋病2件
<漢口にて>
11月2日疳瘡1件
11月25日淋病1件
1月7日軟性下疳1件
1月7日睾丸炎1件
<安慶にて>
12月22日淋病1件
12月24日淋病1件
1938年8月〜翌年1月まで



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