長月文の最近の作品の中から、何編かご紹介しましょう。
『アカ』
まあるい熟したリンゴをそのまま一口齧ってみると
すっぱいようなあまぁいような
不思議な味
まあるいリンゴにできた
私の歯型
不揃いで ぼこぼこ
かわいそうなリンゴ
そのまま酸化してだんだん黒ずんでゆく
可哀想なリンゴ
真っ赤な色が
かわいそうな
だんだんしゃべる言葉を失っていくようなその姿は
かわいそうな林檎
私がやったんじゃない
私は犯人じゃない
ほらだって彼女が顔を赤らめてもじもじしてるじゃない
『ナツヤスミ』
好きな人ができたからと
綺麗になってゆくトモダチを間近でみてて
なんだか淋しいナツヤスミ
私にも好きな人ができたのと
なかなか言えなくて
あんまり可愛くなったと思わないから
いつもの駅でいつものように降りてゆく彼は
名前も知らない他校生
いつか忘れてしまう顔も
今は何よりも気になっているの
あなたのケータイアドレス教えてもらえたら
何を送ろうかと妄想癖
意味のないことだと大人は笑うけれど
本当に意味のないことなの?
そんなことよりも勉強が大事だとか
心底信じられない
愛する人とともに死ねたら本望なんて
そんな童話を思い描いてるんじゃない
誰よりもリアルに生きているつもり
明日の妄想とか未来の予想図とか
そんなもの
リアルに生きているつもり
だから明日世界が滅びるかもなんて考えて
あなたに声掛けてみようかな
残りの夏の思い出に