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「アサヒグラフ」2000.3.3 朝日新聞社 取材 船木敬子 撮影 馬場岳人 |
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木原幸子さんは、人形をつくって十八年になる。陶芸が好きで、伝統工芸の展覧会に通ううちに人間国宝の鹿児島壽蔵氏のテラコッタ人形に魅せられ、その作風を追うようにして人形づくりを始めた。やがて、窯を持たない木原さんは自宅で人形づくりができるようにと、石粉粘土と布を素材に創作するようになる。いずれも独学だった。 |
制作のノウハウは美術専門書などで仕入れた。手芸作品や物産展の実演など、他分野の手工芸に、人形に通じる技術を感じると必ず見に出かけた。ひたむきになれたのは目標があったからだ。左ページの作品「流星−千年紀の旅」から察せられるよぅに、木原さんは与勇輝氏の作品からも影響を受けている。それは、与氏の存在を「心の師」と慕うほどだ。 |
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ファンタジーな雰囲気でテーマを群作するという手法も与氏と木原さんの作品に共通すること。左ページの作品は、十年前から流星が話題になるたびに木原さんが連作してきたものの最新作。 「ほうき星が流れると、光の粒子たちは旅に出る。散らばっていく星層たちのイメージでつくり始めたんです。顔形はおおまかにして、目鼻立ちを彫刻刀で彫りだして一体ごとの面白さを出しているつもりですが、自分でいいと思う顔があるみたいで、いつのまにかどれも一緒(笑い)」 茶化したように自作を語るが、人形たちはポーズも表情も、それぞれ個性を見せて微妙に違う。ただ、六年前の流星たちの写真と見比べて、気になることが一点。今回の作品はやさしい顔になっていることだ。 「それは、ちょっと怖いことなんです。つくったものが納まって丸くなってしまった。この先は角のとれた、ただの隕石になる。無鉄砲さがなくなったので、そろそろ、このシリーズも終わりかなと思っています」 |
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いま、木原さんは四月に発表する作品づくりに没頭している。「蒼い風」と題する青年たちの群像は、二十年前の学生時代を思い出して形にしたという、いわば自己投影からつくりあげた作品だ。 「忘れかけていることに気づいて・・・・・・。誰もが通り過ぎてきたような、若い男女が集う青春の日々。それを作品にしてみたくなった。姿形は今の若者っぽいけれど、気持ちは自分たちの世代をつくっている。でもこの作品、人形は可愛くてポエジーなものと思う身内に『どうして大人のようなものをつくるの』と不評なんです。身内は思いつきを言うように、痛いところをついてくる。いい批評家です」 完成した人形には、その作品らしい息づかいがあるという。それを感じるまで、木原さんは手間をかける。春までには青年たちも独自の呼吸を持つ作品になるのだろう。 木原さんの作品展は、フランス人形、現代の男の子と女の子、時代劇から抜け出たような薄幸なイメージの女たちなどバラエティーに富んだ作品が並ぶ。訪れて「ユニットですか」と尋ねる人もいるほどだ。 「しぼろうとは思いません。フランス人形はむかしアンティークを追っていたころのなごり。どの作品もここまで来た道のりがあるんです」 |
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