木原幸子 夢を紡ぐ人形たち
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紹介していただきました
あの人 木原幸子さん  
「備後美術」Vol.10 秋号 平成11年9月1日
アート印刷
 

夢のかたりべ












西域憧憬

布が造り出す表情は、繊細で美しい。
ご本人は、きれいさは造る対象ではないと言う。
どちらかといえば 「味のある風」 に造りたいそうです。
話しの中で 「こだわっていない」がしばしば出てくる。
きっと、おおらかに、次々に生まれるイメージを
楽しんで造っているのでしょう。

 

でき上がりよりメリハリを付けて
土台を造る。

創作人形はいつ頃からやられていますか?

大学を出て、焼きものをやっていたんです。でも、窯がなくて不自由で、布で造れば一部始終自分の目で確かめられるからいいかなと思って始めました。最近は人形の方が忙しくなってしまって、時間があればまたしてみたいのですが。

今は手軽に窯を手に入れることができますね

そうですね。ただ、今となっては布で表現するほうが自由になってきたようです。

制作の前にアイディアスケッチのようなものは描くのですか?

本当に簡単なスケッチはします。上手に表わせないからメモ程度ですよ。

作り方には基本的なものがあるのでしょうね

習ってないのでその時その時に決めていくんです。陶芸をしていましたから粘土で原形をとって、石膏型に移し変えます。ただ、その時あまりリアルに造ってしまうと同じような人形がどんどんできるから、それもつまらないのでアバウトな感じの形に停めておきます。それを、桐粉 (きりこ) と石粉 (いしこ) 粘土を使って糊で混ぜて乾かし、それを彫刻刀で整えていきます。だから、後で足すこともできます。それからペーパーできれいに磨いて、ツルッとした状態にまでします。ただ、その時、でき上がりよりメリハリを付けて、くっきりと造っておきます。後で布を張ったときにぼやけますから。そして、その上に染めた布を張って、彩色するんです。

目の所も布は連続して沿わせて張っていますね。布は何を使っているのですか?

基本的には木綿を使っています、今は。たまに縮緬とかも使いますけれど。

コスチュームがとてもファッショナブルですね。オリジナルですか?

どこかにお手本があった訳ではないですから、そういうことですね。その人形、その人形で造りたいのです。


夢のかたりべ
夢って不思議でしょ。
きっと夢の語り部が・・・

人形の場合表情も大きな要素ですね。特にこだわっているものがあるんですか

多分人形造りというのは、自分じゃないものを造りたいと思うのです。造りたいものはばらばらしているのですが、一つには、中心はアジアとか大陸っぽいものを造りたい。黄色人種で、特に部族とかにはこだわらなくてわりとイメージで自由に造っています。「夢のかたりべ」シリーズというのがあります。寝ている人の枕元でそっと夢を語っているんです。寝ている人は自分で夢を見ていると思うんだけど、実はかたりべが枕元でいろんな夢をささやいている。懐かしい話しは優しい雰囲気でとか。

そんな話しはどこかの国にあるんですか?

ないです。ないです。私はよく夢を見るから。夢って、実際にはいないのに昔の友達とか、全然関係ない風景なのに、あそこで遊んだなとか思いだしたりしている。夢は不思議だなといつも思っていたから、それを形にしてみたかったものですから。懐かしい夢とか、中には怖い夢とか、その時は語り部は怒ってる人形で顔が引きつったりしている。シリーズで何回も造ってたんですよ。

 
女
けなげに、したたかに生きている
女性に引かれる。

他にもテーマがありますか

お人形といったらフランス人形という言葉が残っていた子供時代を過ごしました。そういったものに憧れ豪華なフリルとかレースとか、アレンジですがそういったイメージのものがあります。もうひとつは、現代風の普段の服を着た男の子や女の子。普通にこの辺でもいるかもしれないような。それから 「女」 のシリーズですね。小説や映画からイメージするもの、例えば 「吉原炎上」 とか、時代の中で生き続けた女たちを材料にして造ってみたいので。私の中のものでは多分ないとは思うんですけど、少しずつ造っているんです。

人形は
無邪気に観てもらいたい。

ほかの人形とは雰囲気が違いますね

だから会場で一緒に並べるというのがどうかなと、でもいつも並べている。こういうのもありますって。けなげに、したたかに生きている女性に引かれるところがあります。あとは土捻りをしているおじいちゃんとか。それは、造る中での楽しみで、観ていただくとかじゃないのかもしれないんだけど。もっとも、造る時って観てもらおうという気持ちでは造りませんよね。いずれにしても出さなくてもいい、発表しなくてもいいという気持ちで一対一で造っているものです。それと、小さい人形もあります。

人形造りで一番大事なところは?

全体が馴染んでいること。どこかが特出しているというのがいやなんです。全体がしっくりできたら、その時点で収まりがついたなと。それを一番心がけていますね。部分的に何かが上手にできていますねって言われるのはまだまだなんだろうなって。指がきれいですね、布をどこで継いでいるか分からないですねとか。お客様は女性が多いので、縫いものをされなくてもいろんなことで目につきやすいところは 「これって大変そう」 って。私としては、でき上がったものを無邪気に観ていただけたらいいかなと思っているんですが。

造る側の身になって観てしまうのでしょうね。人形好きの人は多いでしょうね。

いろいろな人がいます。気に入ったから玄関に置いてお客様に見てもらうと言う人。家族の一員として居間にいてもらう。私の人形だから自分の部屋に置いて誰にも見せない等々。話していて、私より人形が好きな人はいっぱいいるなと。私の場合、多分人形が好きというより、造るのが好きなんでしょうね。集めても、造っても、飾るってことがないんです。これででき上がりとなったら次のものに取りかかっていますから。造らせてもらったらいいという感じですね。

 

西域憧憬

美しい人形は、美しい人間の再現なのでしょうか。各々に共通した美形を感じますが

私の場合、モチーフは人間でなければいけないのですが、美しいものを造ろう、人間を美しく表現しようというのはあまりないですね。今度はこういうのを造ってみようといろいろやるのですが、共通点はあるらしいですね。自分では分からないけど。どちらかといったら味がある風に造りたい。きれいは造りたい対象ではないと思っています。人形を造る場合、布という制約があるんです。最初にこんなのを造りたいなと思って、溜めてる布の中からそれに合うのを探して、その時点で無かったらそこでもう変更しなきやならない。こっちに変更という時もあれば、そのままこれでしましょうという時もあります。目標に向かって造っていても、こっちの方が素敵かもしれないと思ったら安易に変えてしまうタイプですね。そこまでこだわりませんから。だからやってるうちに、髪の毛は最初はこういうのを付けようと思っていたのが全然違うものになっていてということも。

変更を促しているものは何なんでしょうね

自然な感じが欲しい。直せないとこってありますよね。そりゃあ全部一からもう一度こしらえたらいいのかもしれないけど、ほとんど部品としてでき上がってる部分がありますよね、だから収まるんだったらそっちにしましょうってことになりますね。

目や唇は彩色、肌は染色しているのですか

肌は白の布を染色しています。布ですからそれに頬紅を使ったりパステルや色鉛筆で彩色します。コスチュームに関しては、例えばピンクが鮮やかなのをちょっと渋くするためとか、長襦袢の真っ赤をそのまま使うとそこだけが突出するから、馴染ませるために茶とか黒を入れて濃くするとか全体染めをしています。

 
 
やっぱりアジア人なんだ。
愛着がある、そして引かれる。

アジアにこだわる、それは?

アンチックドールってありますね。本当はとっても好きなんですけど、強過ぎて私には造れない気がしたんです。自分自身を持っている人形みたいで。ちょっと東洋的なもの、ネパールとかああいったところのものを見ていたら、人形は別にしてもホッとする、愛着がある、そして引かれるんですよ。やっぱりアジア人だったんだなと思って。

 
この記事の詳細は備後美術さんのホームページこのページに紹介されています。
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