| シリア・ヨルダン旅日記 |
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| 1993年8月25日(水) パルミラ |
5時に起床。5時15分からパルミラの遺跡に昇る朝日を撮りに出かける。
一行とは別行動をとり、墓の谷を見おろす、ウムエルオアシスの丘に登る。丘の稜線に陣取り朝日の昇るのを待つ。風強く、気温は摂氏20度、湿度50%。肌寒い。
5時45分、四面門の背後の地平線に楕円形に潰れた太陽が昇ってきた。薄暗く沈んでいた遺跡が赤く染まり、暗闇の中から浮かび上がってきた。ベル神殿の列柱や壁が刻々と色を変化させる。墓の谷の塔状墳墓も暗闇から姿を現した。足下の砂を掴むと指の間からさらさらとこぼれる。きめの細かい小麦粉のような砂。フイルムの容器に詰め、丘を下る。 塔状墓の一つに入ってみる。元は二層か三層になっていたと思われる四角柱の墓は二層より上が崩れており、一層目もアーチ状の入り口から腰をかがめてやっと中に入れた。かつて棺を納めていた棚も崩れ、瓦礫に埋もれた内部には、わずかに二層に上がる階段の一部が残っていた。墳墓のまわりの石を拾ってみると表面に彫刻の痕跡が。多分墓の入り口か内部を飾っていた彫刻の残骸であろう。状態のいい墓は入り口が塞がれており、中には入れない。浅い谷の斜面に20余りの塔状墓がある。
人気のないパルミラ遺跡を散策。列柱道路、四面門、アゴラなどまわり、7時30分、ホテルに戻る。朝食はヴュッフェ形式。Nさんがおにぎりを配ってくれる(そのために約束の5時30分に間に合わなかったとか)。
8時、バスで遺跡巡りに。大統領広場の南東角にある博物館により、遺跡の管理人を乗せる。墳墓などの鍵は博物館で管理しているとのこと。
まず向かったのは、墓の谷。今朝一人でのぞいた墓から奥へ数百メートル進んだところに残るエラベール家の塔状墓。ナボ神殿の建設に多額の寄進をしたとされるエラベール家の墓は西暦103年に建てられたといわれる。内部は四層になっており、屋上に上がることもできる。内部には壁画や彫像が残っており、棺を納めた棚も階段も修復されている。屋上からの眺望は墓の谷の全景をカメラにおさめるのによいが、足下に空間が多く、高所恐怖症の者には向かない。
墓の前には早速ベドウィンの物売りが店開き。派手な色づかいの帯状の織物や葦でつくった笛を売っている。笛の音は昨夜ベドウィンのテントで聞いたものと同じ。ついその音色にひかれ、一本購入する。
塔状墓のつぎは地下墳墓。シャーム・パレス・ホテルの前の道を7、800mばかり南西に走ると右手に塔状墓があり、その裏に壁画や彫像がほぼ完全に残っている地下墳墓「三兄弟の墓」がある。アーチ状の天井や壁には朱色や青色の顔料で描かれた肖像画や幾何学模様が残り、大理石の石棺には生前の三兄弟の姿をそのままに彫った像がおかれている。
墓を後にベル神殿に移動。この神殿は豊穣の神ベル(バール)を主神に太陽神ヤヒボール、月神アグリボールの三神に捧げられた本殿を中心に、それを囲む柱廊などからなっており、西暦1世紀〜2世紀半ばにかけて建立されたという。
ベル神殿から記念門、列柱道路を通りパルミラの遺跡を巡る。今朝散策した、アゴラ、四面門を経て、バールシャミン神殿に。わずかの距離をバスで博物館へ。
遺跡から出土した彫像やコインなどが多く展示されており、建物中心の遺跡とともに必見の場所。 昼食は博物館の斜め前のレストラン。野外にテーブルが並べられている。もともとフランスの支配下にあったシリアではカフェテラスなど野外にテーブルを並べた店が多い。
レストランではアンチークな彫刻やコインなども売られている。多分模造品ではあろうが、コインを2枚買う。
一度ホテルに戻り、同行者を募り、13時30分、オアシス、パルミラの南にある塩湖の畔に塩田を訪ねる。5人で1800S£。バスは今朝と同じ。ホテルから約30分、地平線に浮かぶ湖は蜃気楼か塩湖か区別がむつかしい。はじめのうちは蜃気楼だったと思うが、その内塩湖に変わっていた。湖畔から2、3キロ離れた砂漠の中に水田のような掘り割りがつくられていた。中には丁度氷が湖岸から次第に張っていくように、塩の結晶ができ始めているものもある。ワジのような流れの跡はそのまま真っ白な塩の流れになっている。その塩を採集しようと近づくとぬかるみに足をとられる。少し砂で赤く染まった塩の結晶を一塊採集しビニール袋に詰める。塩田から1キロほどパルミラよりの砂漠の中にアドベ造りの民家が一軒あり、ナツメヤシと水路沿いに葦の群生した小さなオアシスがあった。水を撒けば塩が噴き上がってくるような砂漠に淡水の出る井戸があるとは。自然の不思議さ。
ホテルの売店で、寄せ木細工の小箱になったバックギャモン(ダイヤモンドゲームのような双六ゲーム?)を買う。30$。
プールで30分余り過ごし荷物の整理。家に国際電話をかけようとしたが通じず。
18時15分、一人5$を払い、バスでアラブ城塞へ。150mほどの岩山の上にそびえるアラブの城塞イブン・マーン城は眼下にパルミラの遺跡全景と現在の市街地のすべてを望むことができる。夕日に染まる遺跡を東に、また、西の植生の全くない岩山の稜線にゆっくりと沈む夕日を眺め、城塞の屋上を一回りする。城塞の周りは断崖になっており、まさに難攻不落の城。
19時15分、ホテルに戻る。売店に行くと、昼間相手をしてくれた店員が、プレゼントだと、ガラスの水差しと石鹸をくれる。何か申し訳なく、お返しにたばことライターそれに小瓶に入ったブランデーを。
20時から夕食。食欲無く、もっぱら果物を食べ、ビールの小瓶一本がやっと。
21時15分、部屋に戻り後かたづけ、3日分の洗濯。