木原幸子 夢を紡ぐ人形たち
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紹介していただきました
 
「月刊プラザ岡山 2012 10月号」
株式会社オークシード 2012.10.1

PLAZA INTERVIEW この人に聞く 人形作家 木原幸子

作品と対話しながらつくり上げていく過程こそ大事にしたい時間。
見る人の気持ちによって、どんなふうにでも見える表情に。

一体一体から密やかな息づかいた聞こえてきそうな木原さんの作品群。効率やスピードが重視されがちな時代にあって敢えて量産することもなく、ゆっくりゆっくり、つくる喜びをかみしめる毎日だという。丁寧に命が吹き込まれ独り立ちしていく人形たち。その凛としたまなざしに現代の人間はどう映っているのか問いたくなる。
陶人形

自分の手で何かつくることのおもしろさ

■幼いころから人形が好きでしたか。

「そうですね、私には3歳上の姉がいるんですが、子どものころからオシャレさんで、私の着ているものを見てもあれこれ言う人だったんです。
その姉がバービー人形が大好きで、いっしょに人形ごっこをしていましたね。祖父がうちにやって来ると、天満屋に連れて行ってもらって、自分たちの服や、人形の着せ替え用の服を買ってもらっていました。人形用といっても、立体裁断のスーツなど本格的なものなんですよ。
父が美術好きだったので、家族で展覧会にも出掛けていました。伝統工芸展では私はやっぱり人形の分野が好きでしたが、それらの完成された別世界の美しさを眺めているだけで嬉しくて、自分から何かしようとか、ましてやつくってみようなんて全く思っていませんでした。」

■人形作家を志すようになったきっかけは何だったのでしょう。

「特に何を目指すという気もないまま大学に入ったのですが、教育学部の幼児教育課程の中で、工作実習がとても楽しいなと思ったんです。
自分の手で何かつくることのおもしろさに初めて気づき、卒業後は倉敷アイビースクエアの陶芸教室に通い始めました。そのころ、ある展覧会で、人間国宝の鹿児島寿蔵さんの人形を見たのが“出会い”でした。それは紙塑人形、とりわけテラコッタで、なんて素敵なんだろうと思いましたね。
陶芸教室では、みんなが器をつくる中で、私だけが陶器の人形をつくっていました。だから、私の初期の作品は土人形が多く、素朴な野焼きなどもあります。
 陶芸教室は楽しかったのですが、私は窯を持っていないので、自分で焼くことができませんから、一人でつくり上げることのできる方法でしたい、と思いました。それが布貼人形に移っていった理由です。洋裁学校や編み物教室などにも通い、自分で縫い物ができるようになったから、というものありますね。師もなく、苦い思いもしながら手さぐりでしたが、とにかく、人形がつくりたい一心でしたね。
 神様が私に与えて下さった贈り物に思えるほど、そんなふうに人形づくりだけはピタッときたという感じでした。」

ドールクラシック
テーマは日常の些細なところから

■試行錯誤の末、自ら編み出した布貼人形ですが、布の中身は何ですか。

「顔の部分は、石塑粘土といって、紙粘土に石の粉を混ぜたものです。
乾いてから彫刻刀で掘ったり、ペーパーで磨いたりして、形がつくりやすいのが特徴です。基本の形ができたら、木綿の布を染めたものを貼り、水彩絵の具やパステルで彩色します。ボディには木毛を詰め、手足には綿を詰めるので少し弾力が出ます。髪の毛は絹糸を染めたものです。衣装は着物をほどいたものや、買いためた絹布など。
普段から、いろいろ買いこんでいるんですが、この布の量がすごいんです。二階が落ちてくるんじゃないかと思うくらい(笑)。
今回はあの布を使おう、と思い出して、布の山からやっと探し出したのに、いざ見ると思い違いがあったり、今ひとつしっくりこなかったり。それでまた次々引っ張り出すもんだから、制作中はテーブルの上がバーゲンセールのようになってますよ(笑)。それから靴もつくるし、散髪もする。人形づくりって、何でもするってことですね。」

■作品のテーマは、いつもどんなふうに決めるのですか。

「日常の、ほんの些細なところから、ふっと浮かび上がります。
歌のタイトルからだったり、テレビのワンシーンから想像を膨らませたり、美術展がヒントになったり。だから、何をしていても人形のことを考えていますね。外を歩いているときも、直接的でなくても、なにか人形に関するものを探している自分がいます。料理をしている最中も頭の中は人形のことだから、失敗することもね(笑)。

 たとえば『輝いていたね、あの頃…』シリーズでは、昭和後期の若者たちをつくりました。まさに私の青春時代で、衣装も当時流行ったものにしています。友だちがそれを見て、『あっ、木原さん、こんなコート持ってたよね』とか、『でも、こんなハンサムな彼氏はいなかったよね』とか(笑)。やはり自分が生きてきた時代がバックグランドになりますね。
人形の顔は、基本的には笑っていないもの、あえて表情のないものにしています。立体なので、見る角度や、見る人の気持ちによって、どんなふうにでも見えるようにしたいので。髪の色や目の色は、特にこだわりはありません。どこか一か所が際立ったりせず、全体が違和感なく収まることを心がけていますが、それ以外は何も決まり事をもうけず、つくりたいようにつくっています。」
 

ハリー・ポッター
日本で初の公式ハリー・ポッターづくり

■ハリー・ポッターの人形制作を依頼されたそうですね。

「2004年に、ワーナーブラザーズ社の仲介をしている博報堂から、『世界的に有名なキャラクターをつくってもらえないか』と申込みがありました。詳しく聞いてみると、なんとハリー・ポッター。
どうして私が?とびっくりでした。本を何度も読み返し、イメージを固めていきましたが、どうしても映画のラドクリフ君に近くなる。『本の世界の永遠なるハリーを』と言われ、ワーナーの社長さん直々に、ハリーの世界観を語っていただいたこともありました。
それでも、服がきれいすぎるとか、もっと男の子らしくとか、顔はこんな感じで髪はこうで…と細かく注文があり、衣装もセーターの色はこれ、ローブの下はこの色と、色見本まで貼られて返ってきたり。一つひとつアメリカ本社の許可をもらいながらの、根気とパワーのいる仕事でした。
それまで好き勝手につくってきた私でしたが、このとき初めて、私って結構努力家なんだなっておもいました(笑)。内面に向かう人形が多かった私ですが、ハリーは爆発させるようにつくり、それもいい経験でした。
7か月で、杖を持ったハリー、ランプを持ったハリー、クィディッチをするハリーの3体が出来上がり、私のもとから元気よく旅立っていきました。
日本各地を巡回したあと、1体は著者ローリングさんに贈られたと聞いています。
ちなみに、日本で公式にハリー・ポッターをつくったのは、私が初めてだそうで、世界的なキャラクター、ハリーとの出会いに感謝しています」。
 祈る
 お客様が見て触れてほっとできる人形を

■今秋には、また個展が予定されていますが、そのテーマは「祈りのとき」だそうですね。

「東日本大震災は、なんとも言えないほど衝撃的でした。祈りという言葉は、すでに使い尽くされた感もあるかもしれません。
しかし震災だけでなく、普通の生活の中にも、心に突き刺さった辛さ、心配事はあると思います。そのとき、ふっと祈りたくなることもあるんじゃないでしょうか。あなたのために祈り、私のために祈る。そんな身近なところの祈りをテーマにしてみました。
見て安心できるもの、手のひらで包むと、なんとなくほっとできるもの、そんな存在になれたらいいなと思います。手でさすり、人形の服が手垢で黒ずむころには、思いが叶っているんじゃないでしょうか。

個展では、お客様とたっぷりお話できるのが楽しみです。
買っていただいた私の人形は、リビングや玄関、ご自分の部屋などに置かれているようですが、毎日話しかけ、家族のように接してくださっている様子など伺うと、うれしくなりますね。
 個展以外では、60年以上まえの、ご自分のお宮参りの着物を持っていらっしゃって、人形にしてください、と言われることもあります。また若い男性が、彼女の誕生日のプレゼントとして彼女の人形をつくってほしい、と言われたこともありました。そういったオーダーも引き受けています」。


人形づくりは仕事であり趣味でもある


■仕事を離れて、趣味は?

「やっぱり人形づくり(笑)。これは仕事だけど趣味でもあるんです。なぜなら、私にとって一番楽しめることなので。だから、家事以外の時間はすべて人形のための時間になっています。
一体をつくり上げるのは、たくさんの行程があるのですが、結果を早く見たいわけじゃなく、つくる過程こそが喜びであり、一番大切にしたい時間なので、なるべく長く持つようにしています。その間はほんとに熱中していますよ。心の中で対話しながら、満ち足りた気持ちになったり、もちろん悩んだりも含めて、めいっぱい楽しんでいます。
出来上がった作品は、どんなに気に入ったものでも、手元に残すことはありません。求めていただいた方が幸せになってくだされば満足です。私はつくらせてもらうことで、こんなに楽しませてもらった、という感覚です。だから、完成後は結構淡々としていて、もう、次の構想を練っていますよ。
 私はよく、『いい出会いが早いうちにあって、木原さんは幸せね』と言われます。けれどもっともっと早く、子どものころに出会えていたら、と思うくらいなんですよ」



 

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